2020年11月8日、第26回日本トライアスロン選手権が開催された。
数カ月に渡り新型コロナ感染防止への対策を検討し、準備し、対応を進めてきた中での開催だ。
「どのような形でも良いから日本選手権の開催を」という選手たちの熱いリクエスト。
「感染防止対策を十分に実施するならば」との地元の理解のもと。
「選手たちのために最大限の配慮をしながら開催を」という関係者の熱い想い。
諸条件をクリアするため距離をスプリントに変更。
しかし天候にも恵まれ11月にしては穏やかな気候となった。
そしてレースは熱かった。
女子レースは上田、高橋、佐藤といったオリンピック候補選手たちを中心に展開される。
距離がスプリントになったため18歳以下の選手の出場も可能となった。
2019年ジュニア世界選手権6位の中嶋千沙都、その中嶋と2020年U19日本選手権で最後まで競り合った林愛望がどこまでエリートに対抗できるのか。
レースは、ウエットスーツ着用許可のためスイムで大きな差がつくことなくバイクに移る。
バイクの早い段階で上田がメイン集団に追い付く。
上田藍選手の勝ちパターンだ。
もちろん他の選手も簡単に勝たせるつもりはないだろう。
思惑が交錯する中、バイクを終える。
ラン・スタートと同時に上田が飛び出す。
ここまではいつものパターン。
しかし上田に中嶋が喰らい付く。
ラン1周目は肩を並べて走り続けるという、いつもとは異なる展開。
最終的には上田藍が経験と実力で中嶋を振り切って優勝。
上田を追い続けた中嶋が2位とランの力を見せつけた。
そしてフィニッシュ直前、佐藤、高橋を交わした酒井美有が3位に入る。
表彰台の上にはいつもとは異なる風景が広がった。
トップ8の中にはU23選手が2名(酒井美有、中山彩理香)。
ジュニア選手が2名(中嶋千沙都、林愛望)
2024年に向け新しい風が吹き始めた。
男子レースは北條、古谷といった優勝候補と初参加のニナー賢治との対決が見もの。
U23選手の中で才能を見せる安松青葉、吉川恭太郎、望月満帆がどこまで食い下がれるか。
スイムは大きくばらけることなくバイクへ。
トランジション+バイクスタートのスピードに乗った北條、古谷、ニナー、望月の優勝候補たちが先頭グループを作る。
バイクの強い選手が先頭にいるため優勝争いはこの時点で決着となり、第2グループ以降は入賞争いのみ、となるのがいつものレース。
しかし男子も今年は少し違う。
第1グループ4名と第2グループ8名のバイク1周目終了時の差、15~20秒がバイク3周目を終えても一向に広がらない。
4周目になると逆に縮まり始めた。
細田雄一、吉川恭太郎、佐藤錬といったバイクを得意とする選手が踏ん張る。
だがここで第2グループに落車が発生。
ギリギリで集団に付いていた選手が操作ミスで転倒。
直後を走る選手を巻き込んだ大きな落車事故が発生してしまった。
追撃ムードはここで終了。
結局、表彰台は第1グループの選手で独占することになった。
結論のみを見ればいつもと同じレース展開、そして同じ結果。
だが内容をみてみると、バイクの重要性を認識し、しっかりトレーニングを積んできた選手が増えていたことはいつもと違う。
東京2020は1年延期された。
それはパリ2024までは3年しか残されていないことを意味する。
東京に集中する選手、2024年に向け始動する選手。
2021年はその両輪で強化を進める必要がある。
【写真1】
国際トライアスロン連合(ITU)も10月1日より名称変更。
WT(ワールド・トライアスロン)として活動を進めてゆく。
新型コロナとどのように向き合ってゆくかはWTにとっても大きな課題。
【写真2】
バイクで逃げる4選手。古谷、ニナー、望月、北條。
バイク・テクニックでは古谷が一歩リード。
北條はこのバイク課題をクリアできれば更に大きく飛躍できるだろう。
中山俊行プロフィール
中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。
【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督