TOP > 連載コラム > トシ中山の「渾身の一撃」 > トシ中山の「渾身の一撃」第157回コラム「新たな男子の戦闘スタイル。変われるか日本。」

トシ中山の「渾身の一撃」第157回コラム「新たな男子の戦闘スタイル。変われるか日本。」

2020東京オリンピックのテストレース(2019 Tokyo ITU World Triathlon Olympic Qualification Event  以下:東京OQEと略す)から2週間後。
スイスのローザンヌにおいて世界トライアスロンシリーズ・グランドファイナル(以下:WTS-GF)が開催された。

スイムはラク・レマン(レマン湖)の特設コース750mを2周、バイクは起伏の多いコースを8周回、ランは100mの上り坂を含む2.5kmを4周回。
コースの特徴を簡単に伝えれば「バイクの実力差が顕著に出てくるコース」といえる。

レース結果は。
東京OQEにおいて実力の片鱗を示したノルウェーチームが、ここローザンヌにおいては遺憾なくその力を見せつけた。
東京OQEにおけるノルウェーの結果はエースの落車もあったが2位、4位。
そしてWTS-GFにおける結果は1位、4位、7位。
オリンピック前年にノルウェーチームは、世界の戦いにおいて新たな戦略を成功させたのだ。

彼らノルウェーチームが重視するのはバイク。
圧倒的なバイクの能力でスイムの遅れをゼロにする。
圧倒的なバイクの能力でランナーを潰す。

東京OQEでは男子メイン集団が大きな1つの塊になった。
これはスイムで遅れ、後ろから追い上げるノルウェー選手が同じくスイムで遅れた選手を全員引き連れてきたことが理由。
そして結果につなげた。

登りの厳しいWTS-GFにおいても同様だ。
最後尾のノルウェー選手はスイムでの遅れを3周目にはゼロに戻す。
スイムで出遅れた選手にとっては先頭集団に戻れてラッキーな展開ともいえる。
しかしここからノルウェーチームの波状攻撃が始まる。
隙があれば逃げを見せる。
逃げが失敗しても登り、下り、ところ構わずペースを上げようとする。
集団の選手は常に緊張感を強いられ、スピードの上がり下がりに体力・筋力を奪われてゆく。
バイク終了時点において集団はそれほど崩れていない。
しかし通常、ランで一気に勝負を賭けるはずの選手が思い通りのレースを展開できないほどダメージを受けているのだ。
バイクで仕掛けたノルウェーチームとて無傷ではない。
しかし攻撃を仕掛ける側と、仕掛けられ守りに徹した側。
バイクコースが厳しければ厳しいほどバイクの実力がある選手の方が有利に働く。
あのM.モーラが、J.ブラウンリーが、V.ルイがランで引き離されてゆく姿は衝撃を与えた。

日本男子選手をみてみよう。
「バイクでは集団について行けばよい」と考える選手が90%以上を占める。
しかし、今回のレースを見て、今現在のところこのバイクスピードの対応できるのは僅か1-2名だろう。
そしてその1-2名もバイク・パートで疲弊しきってしまい走れないだろう。
このレースを見ればそれを思い知らされる。

今まではランの実力差だけに意識がゆき、誤魔化してきたバイクの差。
その差がいよいよ白日のもとさらされることになる。
今までと同じ考え方ではすでに世界との勝負はできない。
既についている大きな実力差が更に広がってしまった2019年。
この差を埋めるためには根本的な考え方を大きく変更する必要がある。
それが理解できなければオリンピックトライアスロン(51.5km)においてこの先10年、日本男子は世界と勝負はできない。

IMG_2490 nakajima
【写真1】
世界ジュニア選手権女子。
中島千紗都が6位に入賞。
まだまだ若い選手なので焦らずじっくりと取り組んでほしい。
未来の有望選手の出現だ。

 
 

IMG_2506 (ブルーメンフェルト)
【写真2】
優勝したC.ブルーメンフェルト。
陸上競技の選手、指導者から見たら「理解不能な選手」であろう。
身体の大きさ、太さからは5000m13分台で走るランナーを撃破できるとは誰も想像できない。
トライアスロンにはまだまだ常識では測れない可能性が残されている。

 
 

中山俊行プロフィール


中山俊行(なかやま としゆき)

1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

Copyright © 2015 Neo System Co., LTD. All Rights Reserved.