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第116回トライアスロン、戦略の戦い

9月25日、第17回アジア競技大会トライアスロン個人戦、男女で金メダル、銀メダルを獲得。メンバーは上田藍、井出樹里、細田雄一、田山寛豪。
9月26日、初採用のミックスリレー。佐藤優香、田山寛豪、上田藍、細田雄一のメンバーで金メダルを獲得。
日本チームが目標とした完全勝利を達成できた。

「勝って当たり前」という状況に打ち勝ち見事に勝利を獲得したことは素晴らしい。
また個人戦においてはチームJAPANとして協力し合い、1位と2位と順位は分かれたものの2名の選手同士が協力し合えたからこそ完全勝利を達成できた。
日本選手同士が叩きつぶし合って表彰台に登れなかった過去の反省をしっかり生かした戦いができたのだ。
誰もが「自分が勝ちたい」という強い気持ちを持っている。
だがそれを2番目の目標とし、4名の選手全員が「日本が勝つ」ということに最重要目標と設定し戦ってくれたことは非常に嬉しかった。

そして日本選手権。
男子においては残念ながら田山、細田の男子2強を崩す選手は現れなかった。
アジア大会の雪辱を果たすように田山が故障を押し切り9回目の優勝を果たす。
細田も故障に悩まされながらも2位でフィニッシュ。
プライドが他の選手の追随を許さない。
そんな中、谷口白羽が積極的なレースを見せる。
アジア大会では出場が叶わなかった椿浩平が意地の走りを見せる。
田山 対 細田の戦いだけで終わる事のない日本選手権となった。

女子においても佐藤優香が初優勝。
女王・上田藍の猛追を振り切る素晴らしいレースを見せた。
上田が中心のレースであったことは間違いない。
スイムで遅れるものの得意のランで猛追。
タイム差を考えれば、ランスタート時点では誰もが上田の勝利を感じていただろう。
だが勝ったのは佐藤。
佐藤がようやく持っているチカラを出し切ることができた。
だが忘れてはいけないのが井出樹里の存在だ。
バイクで先頭の逃げ集団で井出が積極的に逃げる。
この井出の戦いが佐藤 対 上田の戦いの大きな影響を与えた。
テレビ関係者には、井出が逃げるか逃げないかでレース全体の大きな影響を及ぼすと伝えていた。

「個人で戦うのがトライアスロンの本質だ。」
この考えは間違っていない。
昔からトライアスロンに取り組む私としても、そこに本質があると思っている。
だがオリンピック競技、世界選手権競技におけるトライアスロンにおいては、「個人戦+集団戦」という戦略面が大きな影響を与えてきていることを理解しなければならない。
2年後のリオデジャネイロ、6年後の東京オリンピックの頃には更に戦略面を理解しなければ勝つことは難しくなる。
個人の実力を上げると共に、戦略を重視する必要があることを戦う側も観る側も理解していく必要がある。

【写真1】DSCF0578 TRI-X
アジア大会。ランで飛び出す中国選手を抑えるためにオーバーペースで走る田山。

後方から細田が自分のペースで徐々に追い上げる。

【写真2】DSCF0590 TRI-X
ライバル同士が協力し合う。この微妙なバランスが勝利のためには求められる。
アジア大会女子、上田優勝と井出準優勝の陰にはバイクでの協力体制があった。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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