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第109回コラム「勝てない選手の勝てない理由」

ソチでメダルを獲得した選手、見事に入賞を果たした選手、目標を達成した選手、自己ベストを出した選手、本当におめでとう。
悔し涙を流した選手にも、ここに至るまでの努力に対して畏敬の念を示したい。

4年に一度しか開催されないオリンピック。
勝負は時の運に左右されることも少なくない。
勝った選手は実力があったことも確かだが、その実力と共に運にも恵まれたといえるだろう。
運に恵まれなかった選手、実力を出し切れなかった選手、そもそも実力がなかった選手。
勝てなかった選手には明確な理由が存在することを理解しておかなければならない。

選手は数字が大好き。
そして数字化されないもの、可視化されないものには否定的。
心拍数、測定データ、ウエイトで挙げられた重量と回数、走った距離とスピード、タイム、
生理的なデータ。
科学的トレーニングという響きのある練習には積極的に取り組むが、非科学的なものには乗り気でない。
昨今、数字ばかりを重視し、それ以外の部分に目を配ることのできない選手が増えている。
身体的能力で勝る海外選手に、それで本当に勝てると思っているのだろうか。

もちろんデータや数値は重要だ。
不可欠なものである。
かつて「勘」でしかなかったものが数字で見えるようになったことは画期的だ。
問題点は数字に依存し過ぎているという現実。
数字を見てから判断することが多くなり過ぎ自分で自分を把握できない。
数字で判断するため自分の限界を勝手に設定する。

「科学的な数値が限界を超えたので、これ以上動けません」
言葉には出さなくても、そういった考えを持ち行動を取っている選手は多い。

考えてみてほしい。
例えばオリンピックで金メダルまで残り1km。
隣にはライバル選手。
さて、あなたならどうする。
その場面で、乳酸値が限界を超えたら選手は勝負を諦めるのだろうか。
心拍数が限界値を超えたら、筋力が限界を超えたらペースを緩めるのだろうか。
試合のときは「そんなの関係なく頑張る」と答えるのに、なぜ練習の時は数字で全てを判断したがるのだろうか。

私の知る範囲の選手だけかもしれないが、過去に世界の頂点を極めた選手たちは、そんな数字を無視した非科学的なトレーニングにも積極的に取り組んでいた。
彼らは、数字という他人の後姿(データ)を追いかけるだけでは 「No.1」になれないことを知っているからだ。
そして自然や競技環境、タイミングなど全てを味方につけるための努力もトレーニングには含まれていた。
それが運を引き寄せると知っているからだ。

もっとも非科学的な「運」という言葉。
4年に一度の大舞台でこの不確定なものに最後まで振り回され、「運がなかった」の一言で自分の競技人生を終わらせて良いのだろうか。
運を引き寄せる努力、運に恵まれるための努力はしたのだろうか。

勝てない選手には、勝てない明確な理由がある。
勝つためにどう考え、どう行動するのか。
普段の生活態度はそのまま競技結果に結びつくことを覚えておこう。

写真1

国立スポーツ科学センターで測定(BIKE)を受けるU19選手。
データを蓄積することでレベルアップを数字化して確認することができる。
大切なことは、このデータをどのように生かしてゆくかということだ。

写真2

ナショナルトレーニングセンターでバスケットボールの指導を受ける選手たち。
数字以外に大切なものがあることを選手たちに説明するバスケットボー ル・古海五月コーチ。
どんな競技においても、トップ指導者は目に見えないものの大切さを理解している。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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