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第101回コラム「2012年総括」

本年の最大目標であった「ロンドン・オリンピックでのメダル獲得」。
残念ながらこれを達成することはできなかった。
我々、強化スタッフの力が及んでいなかったことは認めざるを得ない。
一方で、WTSにおいては田山が男子初の入賞を果たし、世界選手権においてはジュニア男女が活躍をするなど日本の未来は決して暗くは無い。2013年から日本トライアスロン連合は新たな強化体勢を構築し、再スタートを切ることになる。
選手に希望することは、まずはそのメンバーに加わり本気で世界の頂点を目指してゆこうという気持ちになってくれること。
関係者に希望することは、高い志を持つ選手を厳しくも暖かく応援してくれること。
全てが一体となってゆかなければ目標を達成することは難しい。
それほどオリンピックでメダルを獲得するということは難しいのだ。
チームJAPANとしての取り組みが求められる。

さて2012年の総括を述べたい。
レース全体と通じて感じたこと。
「BIKEの弱体化」
これに尽きる。

SWIMが速くなければ第1グループでBIKEを走れない。
SWIMの強さは絶対条件だ。
RUNが速くなければ、ゴール勝負まで辿り着く事はできない。
最終種目である以上、ランの速さは必須だ。
SWIM&RUNの重要性はすでに誰もが認識している。

1994年、トライアスロンがオリンピック正式種目決定の際、BIKEにおけるドラフティングの取り締りができないことを理由の一つとして、ルールの変更が行われた。
3種目の中でもっとも日本選手が苦手としているBIKEルールの変更は、日本選手が世界で活躍するチャンスを大きく広げた。

考えてほしい、ノンドラフティングでの実力差を。
日本選手と、カンチェラーラとが走った場合、40kmの個人タイムトライアルでどれほどの差が開くかを。
そこでついたタイム差をSWIMとRUNで逆転することがどれだけ大変かを。
ドラフティング許可レースは、日本選手の可能性を大きく広げたことを覚えておいてほしい。

ルール変更がなされた数年間、BIKEパートは一部の選手にとっては休息ポイントとなってしまった。
誰も先頭で走りたがらずBIKEはただのつなぎ種目となりSWIM&RUN大会となったこともあった。
しかし今は違う。
SWIMの優位性を活かし序盤からブッ飛ばす選手、集団の中でライバル選手にダメージを与えようとする選手、いちかばちかの勝負をBIKEで仕掛ける選手など、BIKEの戦略や実力差が再び表れるようになってきた。

ノンドラフティングで戦っているエイジグループ選手より、「BIKEが速い」と誰もが認める日本人エリート選手は何人存在するだろう。
エリート選手はITUポイントを稼ぐために、ノンドラフティングのレースに出場するチャンスがない。
これは認めなければならない事実だが、あまりにBIKEを軽んじてしまったツケが今、大きく圧し掛かってきている。

BIKEの重要性に気付いた何人かの選手は既に自転車レースにも積極的に参加している。
実際、WTSや世界選手権などのBIKEパートで普通に走れる選手は、ほとんどが自転車競技経験者だ。
これらの選手は、単純にBIKEが速いだけではなく、集団走行や位置取り、スパートへの対応、集団の動きやその意味などを何となく理解している。
練習だけでは決して得ることのできないものがBIKEには多く存在する。
それがBIKEの難しいところであり、楽しいところである。

日本のトップ選手は、SWIM&RUNでは決して世界で引けを取っていない。
だからこそ早急にBIKEレベルを「普通レベル」までには戻さなければならない。
SWIM、BIKE、RUNの3種目のトレーニングは本当に大変だ。
だがトライアスリートであることを選んだ以上は、1種目たりとも手抜きは許されない。

苦手や不得意は最も重要なレースで必ず選手の足を引っ張る。
そして決定的な敗北へと導く。
得意にならなくても良い。
だが「苦手」「嫌い」をなくすことはとても重要だ。
3種目あって「トライアスロン」。
そのことを改めて認識してほしい。

皆さんにとって2013年が素晴らしい1年となることを祈念しています。

vol101-1
【写真1】
自分一人の意思では集団の動きを決めることはできない。
だからもどかしい。
だからこそチャンスが大きい。
速く強く走れる実力は当然だが、そこに戦略を加えることができる唯一の種目。
それがBIKEだ。

vol101-2
【写真2】
3本ローラー台でアップをする大学後輩選手。
バランス良く回転を上げる技術系トレーニングに有効な3本ローラー台。
パワー系、心肺機能系のトレーニングに有効な固定ローラー台。
それぞれに良い部分、効果的な部分を理解して使用してほしい。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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