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第85回コラム「選手選考の難しさ」

この度の震災におきまして被害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。
その被害の甚大さと、悲惨な映像を目にして言葉もありません。
こんな厳しい状況からも、我々日本人は強く逞しく復興してゆけることを世界に証明してゆきたいと思います。さて、前回はオリンピックでのメダルを望みながら、一方でそれを妨げてしまう選手、指導者、関係者の心理について書いてみた。今回も続編として選手選考を考えてみたい。

選手を選ぶときに、当然「選考方法」は明確にされなければならない。
これは当たり前。今までも数々の競技で、オリンピック選考においてトラブルが発生してきた。どこに問題があるかは、ケースバイケースなのでここでは改めて述べない。
私自身も選手時代、指導者時代に多くの経験をし、いろいろ勉強させてもらった。

選考基準があり、それをクリアした選手が選ばれる。これは当然。そこには問題は発生しない。

クリアした選手が、参加できる人数(参加枠)を上回った場合。
これを解決するためには選考基準に優先順位をつけておけばよい。
「勝つべき時に勝つ」「本番に近い環境」というようなハードルがそこには設定されている。レースならばどれも同じ、という考えは間違い。

難しいケースが、選考基準をクリアする選手が不在の場合。
類似した結果を残した選手が複数存在し、そのどちらかを選ぶという状況だ。
だが冷静に考えてゆけば、これもそれほど大きな問題ではないはずなのだ。
競技成績だけではなく日常生活における取り組み姿勢や、心の強さ、競技に賭ける気持ちなどを見てゆけば良いのだ。
だが一般の方々からはそれが見えない。
その結果、「憶測」「うわさ」で判断するしかなくなる。
また当該選手に直接係る指導者、関係者は冷静ではいられない。
そこには利害関係もからんでくる場合もあるかも知れない。

そうなると事実とは関係ないものに踊らされ、「選考方法が不明瞭だ」と叫び、選考方法や選考基準そのものを批判し、自分に有利に変えようとする人たちも出てきてしまう。心ない一部のマスコミが面白おかしく話題にする。
そういった事態が発生しないようにトライアスロンにおいてはホームページを通じ、情報を可能な限り公開し、公正な選考となるように心掛けている。まずは自身でしっかりと情報を確認してほしい。

だが選手選考に関して、もう一つ進んで考えてほしい。
基準をクリアできなかった選手ということは、目標に届かない可能性が高い選手であるということ。この選手を無理に選出する必要があるのだろうか。
「枠があるから参加できる」という甘い発想をなくし、目標達成への強い意思を示すために「選考しない」という方策も存在する。

また、オリンピックはその年限りで終わるわけではない。4年後にもやってくるのだ。
長期的な展望なくして、本当の強化はできない。
「目標を達成できる可能性が薄いのであれば、その次の時代に目標を達成できる可能性の高い選手を選考する」。これも一つの方策である。

いずれにせよ目先のことだけに囚われていては「メダル獲得」という目標は達成できない。
だからこそ選手選考に関わる者達の責任は重大である。
間違いなく言えること。それは全員が「真剣になる」ということだ。

85-1
(写真1)JOCオリンピック有望選手研修会。各競技、各種目の有望選手が集まってJOCで研修を行う。
参加する選手は当然、真剣だ。

85-2
(写真2)2011年WCSシドニー大会。女子は真夏の日差しの中でのレース、男子は冷たい雨の中でのレースとなった。
選手の真剣さが空回りし落車の多いレースとなってしまった。オペラハウスの上からトランジションエリアを撮る。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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