TOP > 連載コラム > トシ中山の「渾身の一撃」 > 第214回コラム「エリート女子の危機」

第214回コラム「エリート女子の危機」

2024年パリオリンピック。
日本の女子は高橋侑子選手が唯一の代表となり戦った。
高橋選手に続く候補選手が故障や不調で実力を発揮できなかったことが原因だが、女子の選手層を厚くすることは緊急の課題となっている。
ワールドランキング60位以内に入いる選手を増やさなければ希望する国際大会に出場することすら容易でなくなる。
現状の高橋選手1名の状態を解消してゆくことが第一歩となる。

林愛望選手が次世代選手ながら事実上の日本ナンバー2として2025年から世界のエリートに挑む。
いきなり上位に入れなくても問題はない。
全力でチャレンジし、レースで実力を出し切ることが重要だ。
その積み重ねが世界の舞台へ一歩一歩近づく結果となる。
成績・結果そのもの以上に林選手の戦い方に期待したい。

ではそれに続く選手は。
ベテラン選手と次世代選手が鎬を削って戦うことがレベルアップにつながってゆくだろう。
もともと日の丸を背負って戦おうとしている女子選手の数は男子選手に比べて少ない。
数が少ないということは競り合う選手も少なく、そうなると競争力が低くなる。
選手個人や一部の指導者が気合や気力で戦っているが、それだけでは上位に食い込むことは難しい。
競争力を上げてゆくためにも選手層を厚くしてゆくことが求められる。

しかし世界のトライアスロンは3種目において日本トップクラスの力を持たないと世界シリーズやワールドカップでは活躍できなくなってきている。
競泳、陸上長距離、自転車競技からの転向選手にも期待したいが、陸上には実業団があり、自転車には競輪がある。
競泳選手もプールスイムが苦手でもオープンウォーターで活躍できるチャンスを得ている。
個別種目で、それなりの力がある選手はリスクを冒して新たな挑戦をしようとは考えないだろう。
競技間トランスファーを推奨しているものの選手の意識はなかなか向いてこないことも頭に入れておかなければならない。
だが有望なタレントは確実に存在している。

新鋭・武中香奈枝選手。
およそ10年前、吉川恭太郎選手と共に中学生時代にトライアスロン体験合宿に参加していた。
その後、競泳選手となり全日本クラスの選手として戦ってきたが大学卒業を機にトライアスロン界へ戻ってきた。
トライアスリートとしての経験値は圧倒的に不足しているが、トップアスリートとしての経験値は高い。
短距離選手だった彼女は1秒の重さを十分すぎるほど理解している。
2時間近くに渡る競技の中で、その「1秒」の大切さを理解し、トレーニングに反映させることができる。
これは大きな才能だ。

そして2024年まで戦い続けてきた女子選手たちにも大きなチャンスは来ている。
世界中で世代交代がなされ、ここまで稼いだワールドポイントが彼女たちを後押しする。
引退する選手たちの空席を奪い取れるのが2025年だ。
このオフシーズンに昨年経験してきた世界レベルを思い出し、そこで戦える実力を身に着けることができれば新たな世界が開けるのだから。
「夢見る夢子さん」ではなく「夢を実現するアスリート」となって欲しい。

 

【写真1】
久しぶりの開催となった神奈川県の認定記録会。
不運にも激烈な寒波が到来し非常に厳しい環境下での開催となった。
それでも強い選手は強い。
ランではスタートからフィニッシュまで佐藤錬選手が先頭を走り続け基準をクリア。
KnTU記録会_レン

 

 

 

 

 

 

 

 

【写真2】
意外と知られていないJTUのバイク基礎練習動画。
エリートもジュニア、エイジもしっかり修得して欲しい技術だ。
安全にトレーニング、そしてレースをするためにも。
エリート選手は、このレベルがクリアできなければヨーロッパや北米では戦えない。
<ロードバイク基本技術習得と安全管理>(動画)
https://www.jtu.or.jp/news/2021/06/28/35340/
自転車技術VTR

 

 

 

 

 

 

 

中山俊行プロフィール


中山 俊行(なかやま としゆき)

1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)トライアスロン日本チーム監督

Copyright © 2015 Neo System Co., LTD. All Rights Reserved.