JTU認定記録会。
若手選手の登竜門であり、エリート選手にとっても海外へ飛び出すための関門。
スイムとランのタイムでランク(級)を取り決め、それを評価の一つとして選手強化の指標としている。
長年に渡りJTU強化基準としての役割を果たし、バージョンアップされ、今日に至る。一つの指標としては非常に良い基準であると言える。
だが当然、改善が必要である。
「トライアスロンは3種目なのに、なぜバイク評価がないのか」
多くの選手や関係者から聞かれる質問だ。
パリ・オリンピックを経て、真剣にバイクの評価について考えなければならない。
アメリカ代表の女子トライアスリート、テイラー・ニブ選手。
トライアスロンのアメリカ代表であるとともに自転車競技ロード個人タイムトライアルのアメリカ代表としてもパリ・オリンピックに出場。
どちらの種目においても19位と今一つ振るわない結果であったが現時点における「バイク最強」の女子トライアスリートであることは間違いない。
アメリカは異なる競技種目の代表としてテイラー選手をよく選出したな、と感心するが、自由の国アメリカを象徴する考え方なのだろう。
素晴らしいことだ!!
さて、この話を聞いて多くの選手たちは「凄いな」で終わってしまうと考える。
この「凄いな」はどれぐらい凄いのか。
女子選手のみならず男子選手も知っておく必要がある。
自転車のレベルを具体的に考えて欲しい。
テイラー・ニブ選手は今年の全米自転車競技選手権のロード個人タイムトライアルで優勝したことで、パリ・オリンピックの代表権を獲得した。
2位はKirsten Faulkner選手。
この選手もパリ・オリンピック自転車競技のメンバーとして選出。パリにおいては「チームパーシュート(団体追抜)」で金メダルを獲得している。
全米選手権ではテイラー選手に敗れたものの個人タイムトライアルのもう一人のアメリカ代表、Dygert Chloe選手。
パリ本番では「ロードタイムトライアル」で銅メダルを獲得。そして「チームパーシュート」のメンバーとしても走り、金メダルを獲得している。
テイラー・ニブ選手はパリ本戦において複数回の落車をして個人タイムトライアルでは結果につながらなかったが、オリンピック選考レースにおいては2人のメダリストよりも速く走っていたという事実を知っておく必要がある。
そして。
パリ・オリンピック「女子チームパーシュート」の金メダル・タイムは4分4秒306(距離は4km)。
荒っぽく言えばおよそ時速50kmで4kmを走ったということだ。
この事実をどう受け止めるか。
2024年・全日本大学対抗自転車競技選手権が同じ8月に開催された。
男子チームパーシュートの優勝タイムは4分4秒730(中央大学)。
すなわちテイラー・ニブ選手は、男子大学生のトップ選手と同等レベルのスピードと強さを有しているということになる。
1周250m 室内の板張り競技場という条件は一緒。
まずはこの現実から目を背けないことが重要だ。
日本の男子トライアスリートで自転車競技大学生と同等のスピードで走れる選手が何人存在するだろうか。
女子トライアスリートが世界で戦おうと考えたら、目指すべきは男子大学生のトップ自転車競技選手であること。
このことを理解している選手がどれだけ存在するだろうか。
だがこれはWTCSレベルで戦う女子の話。
男子であれば更に上のレベルが求められる。
スイムとランにばかり目がいってしまい、おざなりにされてきたバイク種目。
世界を目指すのであれば、バイク強化をどのように進めるかも重要なキーポイントとなる。
スイム、バイク、ラン、3種目全てにおいて個別競技の日本選手権に出場できるレベルが求められている。
トライアスロンにおける日本の悲願「メダル獲得」へのハードルは高くなるばかりだ。
【写真1】
現時点において日本の男子選手の中で唯一世界レベルのバイクで互角に戦っているのがニナー賢治選手だ。今、開催されているスーパーリーグでも先頭を走り、集団を引ける走力がそれを示している。
今後はこの走力が基準となるだろう。
【写真2】
パリのトライアスロン・バイクコースは想像以上に厳しい。
日本では経験できない石畳、雨で濡れた滑りやすい路面、集団の中では確認し辛い荒れた道路状況。
苦しみながらもバイクで粘り、追走する小田倉真選手。
持ち味のしぶとさ、粘り強さは発揮できた。
中山俊行プロフィール
中山 俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。
【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)トライアスロン日本チーム監督