TOP > 連載コラム > トシ中山の「渾身の一撃」 > 第188回コラム「トライアスロン界の巨星、墜つ。」

第188回コラム「トライアスロン界の巨星、墜つ。」

2022年7月31日、日本人として初めてアイアンマン・ハワイ大会を走った永谷誠一JTU参与が逝去された。
心からご冥福を祈りたい。
1981年2月に開催されたアイアンマン・ハワイ大会に出場した日本人選手8名のうちの一人。私よりもキャリアのあるトライアスリートはこの大会に出場した8選手のみだ。
私にとっては数少ない先輩選手であり、よく面倒を見てくれた恩人でもある。

帰国後してすぐ、永谷さんは日本でトライアスロン大会を開催しようと活動。
わずか5ヶ月後の1981年7月に鳥取県皆生温泉にて国内初のトライアスロン大会を開催することに成功した。
地元・皆生温泉もこの新しいスポーツをよく受け入れてくれたと思う。
更には熊本クレイジートライアスロンクラブ(以下、熊本CTC)の創設者でもある。
こちらも日本初のトライアスロンチームだ。
また1985年には、オリンピックを将来に見据えた日本初のスタンダード・ディスタンスレース(51.5km)を熊本県天草市(当時は本渡市)で開催した立役者でもある。
まさに日本トライアスロン界の父とも言える人である。

日本選手が初めて出場した1981年のアイアンマン・ハワイでの最終走者はなんと日本人選手(故 堤貞一氏)。
完走するのに24時間以上もかかった。主催者もこれには困惑したのだろう。
その後は、レース当日の24時をもって足切りとすることにルールが改正された。
アイアンマンのルールの一部を作った男となった。
トライアスロンという、当時は誰も知らなかったスポーツを日本に紹介し、そして今の状況を作り上るキッカケを作った功績は大きい。

余談だが当時、私は熊本CTCに加入させてもらえなかった。
理由を聞くと笑いながら「あんたは酒が飲めんから」と言われた。
若かった私を、奥様の安子さんと共に一緒になって応援してくれた。
本当に面倒見の良い方だった。

日本トライアスロン発祥の地、鳥取県皆生温泉といえば、2000年シドニーオリンピック日本代表・小原工氏。
今はチーム・エフォーツの小原監督として活動しているが、彼も皆生大会を見てトライアスロンに触れ、そして日本代表にまで上り詰めた。
1980年代に撒かれた種は日本全国に広げ、花を咲かせる結果へとつながっている。
その間、JTUも飛躍的な進化を遂げた。

今やトライアスロンは耐久レースとしてだけではなく、スーパースプリント、スーパーリーグ、アリーナゲームズ、インドアレースなど様々な形で開催されているようになっている。
40年前には誰も想像していなかっただろう。

読者の皆様も自身のトレーニングをしながらも時々はトライアスロンの歴史をちょっとだけ振り返ってみてほしい。
草創期には、上半身裸、ノーヘルメット、トランジションエリアでそのまま着替え、ディスクホイールにシートシフター。
生まれては消えた様々な機材。
そして洗練されていった機材やレース形式。
トライアスロンの歴史を振り返ると興味深く、新たな発見ができると思う。
トレーニング方法もその当時から変わらない部分、アップデートされ常識が一新された部分との両方を学ぶことができるだろう。
ぜひ学び、自身のトレーニングに役立ててほしい。

【写真1】
1983年アイアンマン・ハワイ大会の参加賞。
熊本を代表する往年の名選手が2022年の天草大会で使用していた。
アイアンマン1983シャツ

【写真2】
1985年第1回天草国際トライアスロン大会においては、日本スポーツ界&プロ野球界を代表する名選手・長嶋茂雄会長が現地まで足を運び、トライアスロンを応援してくれた。
1985天草大会表彰式

 
 

中山俊行プロフィール


中山俊行(なかやま としゆき)

1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)トライアスロン日本チーム監督

Copyright © 2015 Neo System Co., LTD. All Rights Reserved.