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第129回コラム 「アジア選手権U23男子。チームプレー成功!!」

自転車競技ツール・ド・フランスを見たことがある人たちであれば「アシスト」という言葉を聞いたことがあるだろう。
エース選手を勝たせるために自分自身の結果を顧みず献身的に働く選手を指す。
アシストの仕事には「勝つ」ことも含まれるが、大半はエースを支えることが中心となる。
我欲を捨てチームのため、エースのために勝利に尽くす。
それがアシストだ。

トライアスロン競技においても成熟が進むとともにアシストを使ったチームプレーの話題がたびたび話題に出るようになる。
ロンドン五輪ではイギリスチームはブラウンリー兄弟を勝たせるために3番目の選手をアシストとして選出した。
残念ながら役に立つことはなかったが、ブラウンリー兄弟は自力で1位と3位を勝ち取った。

日本もアシストを利用したチームプレーの導入を試みたことがあるが、選手自身が状況に応じた具体的な行動、手段を知らないためほとんど役に立たないのが現状だ。
「後ろのグループに落ちてしまったエース選手をトップグループに引き上げるために一生懸命にバイクで引っ張る」。この程度の認識では役をなさない。

さて4月末に広島県廿日市市で開催されたアジア選手権。
U23男子のレースにおいて、このアシスト、そしてチームプレーが初めて機能した。
作戦は次の内容だ。
(1) スイムで飛び出し、少人数で逃げる。
(2) 第2グループに残った選手は他国選手の状況を見ながら先頭グループとの差を調整する。十分な差が開くまでは無暗に追いかけない。
(3) 先頭が逃げ切れると判断できればタイム差を広げる。逃げ切りが難しいと判断されれば速やかに追いつく。
(4) 第2グループは他国選手を疲労させるための行動を集団内で行う。
(5) 第2グループは、他国選手に十分にダメージを与えたのち、第1グループを追い上げる。

1位の選手のみにU23世界選手権代表の座が与えられる。
参加する日本選手全員が資格を獲得したいところだろう。
だが日本チーム優勝のために、アシストとなることも覚悟して臨んだ。

レースはスイムで抜け出した前田凌輔が先行する。
山本、杉原が一緒にバイクスタートをする予定だったが前田の調子は予想以上に良く単独で抜け出すことになった。
バイクに移ると前田はそのまま先行する意欲を見せる。
第2グループで上がった山本は真後ろに韓国選手が付いてきたために無理に追わない。
第3グループには杉原と渡部。こちらにも韓国、カザフスタンが付いてくる。
やがて第2と第3グループは合流。

前田を逃がすために山本、渡部、杉原の3名が上記の作戦通りに動く。
前田のバイクは快調。
第2グループのスピードが上がり過ぎないよう調整しながら、コーナーでスパートを掛け、第2グループの韓国選手2名、カザフ選手1名を引き離すことに成功。
その時点で前田との差は2分と十分な差がついていた。
誤算は第2グループがこの引き離しの活動で疲労困憊。
バイクの残り周回で、前田との差を全く詰めることができなくなっていた。

脚に故障の不安があるものの前田はこの差をランで十分に生かして見事に優勝。
しかしフィニッシュしたとき第2グループをコントロールしていた杉原との差はなんと14秒。
更にはバイク終了時に4分近い差をつけていた韓国選手とも25秒差しかなかった。
しかしレース前の目標「優勝」をU23男子チームは全員の力をもって達成した。
もちろん前田の先行は素晴らしかったが、日本選手同士が個々の欲求を満たすためにバラバラに走っていたら間違いなく韓国選手に敗れていた。
それぞれが役割を理解し、行動した結果が優勝につながった。
これほどチームプレーが見事に達成できたレースをトライアスロンで見たのは初めてだ。

優勝者しかU23世界選手権の代表権は獲得できない。
アシストとした働き、チームプレーに徹してくれた杉原(2位)、渡部(4位)、山本(5位)の夢も背負って戦う義務が前田凌輔には生じた。
そのことを前田も理解していると思いたい。
答えは9月のメキシコ・コズメルで。

U23男子表彰
アジアU23選手権・男子の表彰。
表彰台独占はならなかったが誇りある勝利だ。

スタート前の田山エリート男子はオリンピック出場権を賭けた戦い。
古谷純平がバイクで思い切った一人逃げに出るが失敗。
細田が有利に展開するも最後は田山が勝った。
2012年ロンドン・オリンピックの最終選考と同じくギリギリで田山が出場権を獲得する。

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