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第124回コラム 「WTS-GFシカゴ大会、上田藍の爆走」

シカゴを訪れたのは30年ぶり。
1985年、チームエトナのメンバーでここシカゴの地に立った。
日本人選手が初めて公式的に51.5kmのレースに参加した場所がここだ。
だが、そのときの記憶はほとんどない。
スタート号砲を、寒さに震えながら水の中でひたすら待ったことだけは覚えている。

9月17日-19日、世界選手権シリーズ・グランドファイナルが開催された。
この3日間にジュニア世界選手権、U23世界選手権、エイジグループ世界選手権、そしてパラ・トライアスロン世界選手権が一緒に開催される。

期間中、サンダーストーム(雷付きの嵐)の影響を大きく受けてスタート時間や競技順が大幅に変更されるアクシデントがおまけでついてきた。

男子ジュニア選手はこの影響を最も強く受け、3時間以上のスタート時間遅れに加え、種目がデュアスロンに変更された。
だがこの変更により男子選手のランの走力がどれだけ世界から立ち遅れているかを明確に確認することができた。
第1ランで「勝負あり」の状況だった。

U23男子もランでの差を見せつけられる結果に終わった。
しかしスイム、バイクにおいて積極的にレースを進めた谷口白羽が15位。
数字だけ見れば良いとはいえないだろう。
だが昨年まで全く通用していなかった、このカテゴリーでこの順位を残したことは十分に評価ができる。
福井U23男子監督の指導が少しだけ形を見せた結果となった。

ジュニア女子もスイムでの出遅れ、落車など厳しい戦い。
U23女子もランでの力不足を示すことになった。
身体の成長速度が海外選手と比較して日本選手は早いとは言えない。
確かに体格差は否定できないハンディである。
これを十分に理解した上で育成、強化を進める必要がある。

だがエリート女子においては大きく異なる。
スイムを終え第1集団で走る井出樹里。
第2グループから追走する上田藍。
井出は安定したバイクの走り。
上田は第2グループで先頭を引きまくる。
結局、上田の第2グループは、第1グループに追いつくことはできなかった。
しかし日本選手がここまでバイクで走れるのか、と驚かされるほどの勢いで最後まで爆走を続けた。

ランに入っても井出のペースは変わらない。
怪我の不安があるのか無茶はせず、安定した我慢の走りに徹している。
一方、上田はWTS横浜の時のようにバイク爆走後に苦しい表情を見せることはない。
ランに入っても爆走は続く。
フィニッシュまであと僅かのポイントで井出樹里をも抜いてしまう。
結果は入賞として線引きされる8位。
井出は最後まで無理をせず10位。
日本女子はベテランに入りつつある2名が大きな結果を出した。
残念ながらこのレースにおいては佐藤、高橋は戦うことができなかった。
長いシーズン、良い時もあれば悪い時もある。

リオデジャネイロ・オリンピックの内定選手は出なかったが嬉しい結果を出せた。
上田のスイムが好調であれば更なる上位進出が可能。
井出が死ぬ気で走れば入賞は可能。
佐藤(トンヨンWC優勝)と高橋(リオでは14位)が本調子で走れば入賞は可能。
日本女子の可能性を感じされてくれる結果を出せたと思う。

だが出場枠は3つ。
誰がリオで結果を出してくれるのか。
エリート女子の熾烈な争いがお互いのレベルを高め合い、夢の実現に近づく結果となる。

福井&谷口

【写真1】
福井U23男子監督と愛弟子・谷口白羽。日本の若手男子が世界で活躍するための突破口が少しだけ見えてきた。

日本選手団

【写真2】
エイジ世界選手権も熾烈。日本からも名だたるエイジ・アスリートが大勢出場。日本チーム全体で盛り上がることが好成績につながると感じた。開会式のパレードに集まった選手たち。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)

1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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