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第12回「勝利への執念」

現在ヘルシンキで開催されている陸上の世界選手権、男子400mハードルで為末大選手が銅メダルを獲得したことは何度も繰り返されるVTRを見て誰もが知っているだろう。「亡き父に送るメダル。」「4年間の苦難を乗り越えたメダル。」「ラストサムライ、メダル獲得」など、マスコミの格好のネタとなっている。ハッキリ言って、そんなことはどうでも良い。ただ、彼がホンモノを目指し、ホンモノのトップ・アスリートであったことに注目してほしい。

為末選手が最後の勝負、ゴールライン目掛けて飛び込んだ。そして0.1秒にも満たない差でメダルを獲得した。あの姿を見て「執念」を感じられた視聴者も多かったことと思う。私はあの姿を見て、1988年ソウル・オリンピックで鈴木大地選手が100m背泳ぎで金メダルを獲得した時を思い出した。あの時もタッチの差で金メダルを獲得した。

この2人に共通するもの。それは「勝利への執念」だ。もちろん参加選手全てがそれぞれの思いを持って競技に臨んでいる。負けようと思って参加する選手はゼロだ。だけど、本当に勝とうと思っている選手がごく僅かであることも間違いない。「勝てたら良いな」「勝ちたいな」という選手が大半を占めるだろう。別にそれが悪いことだと言うつもりはない。ただ、本気で「勝ちを狙いにゆく選手」と、「勝ちを拾おうとする選手」との差は大きいということだ。それが、あの土壇場で、「飛び込む」という行為に表れたと感じている。
素人が見ても最も判り易かったと思う。4位になった選手が同じ行為をしていれば為末選手がメダルを獲得できたとは思えない。まさに為末選手が、勝つために周到に準備したテクニックであり執念であったと思う。

さて、世界を目指す我らが日本のトライアスリートにどれだけ「世界で勝つ」ことを目指して練習に励んでいる選手が居るだろうか? 願わくば1人でも2人でも存在してほしい。自分自身の青春と引き換えに世界に挑戦する選手は数多くいると感じる。しかし、自分の命に代えても・・・という選手の存在は今のところ感じられない。田山寛豪、平野司といった新鋭達が、そういう領域にまで進んでくれることを望んでいる。充分な素質をもった選手が死に物狂いで獲得できるものが、「世界でのメダル」だと考えている。
もっとも今の時代に「命を賭ける」ことが正しいか否かは判らない。しかし私が直接この目で見てきた、本気で世界を獲ろうとしている選手達には、例外なく、そういった執念を感じられた。

ホンモノを見分ける目を持とう、と以前のコラムに書いた。世界水泳、世界陸上、そして9月に蒲郡で開催されるトライアスロン世界選手権。そういうホンモノを目指している選手を応援し、また自分のひいきの選手がホンモノになれるよう周囲の支援者も応援してあげてほしい。そうすればロングの選手や一般の選手にとっても興味深い大会となるだろう。せっかく同じ競技をするもの同士。距離や目標は違っても、トライアスロンを応援してほしい。
メダルを取ったからといって日本でトライアスロンがブレイクするとは思えない。しかし、どのスポーツ界に対しても誇れる選手がトライアスロン界に存在することは我々全トライアスリートの願望であるはずだ。我々はトライアスロンを愛し、トライアスロンに誇りを持っているのだから。

「勝利への執念」を世界選手権・日本代表選手に期待したい。

(写真)
ちょっと頼りないけれど・・・
君も世界に手が届く位置に立っている。「ヘンタイカワハラ」、ロングで世界を目指せ!
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中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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