残念ながら「世界No1」には手が届くことなく現役生活は終わった。
何が足りなかったか今なら判る。身体的な才能が欠けていたことも事実ではあるが、「命を賭けて戦う」と言葉にしながらも、その覚悟が足りていなかった。
レースで勝つために「死ぬ覚悟が必要だ」と言うつもりは無い。
庭田清美選手のようにこの競技を心から愛し、人生を賭けて競技に挑戦し、全身で競技を楽しむ方法もある。私にはマネが出来ないが一つの理想型である。
不器用な私にはそれができなかった。従って、命を賭けた挑戦方法が必要だった。しかし数年たって見返してみると「本当に命を賭けたか?」との自問自答に胸を張って「YES」と答えられない自分が居た。
「なぜ格闘技やり始めたんですか?イイ歳して。」と聞かれる。
指導者として、レース前の高揚感、恐怖感をどうやってコントロールするか、それを選手に伝えたいと思い、取り組んだのがキッカケだ。
オリンピックでスタートラインに立つことをイメージした場合、極度の緊張状態になることは容易に想像できる。
そんな状況下においても冷静な目で自分を見つめられるような選手を作り上げたい。全ての選手にそういうアドバイスができるようになりたかった。
格闘技は普及のためにスポーツ化されている。とはいえ、一歩間違えば「暴力」という凶器&狂気となってしまう。そうならないために、ルールがしっかりと作られ、極力怪我をしないように工夫されている。
実際、取り組んでいる選手達はびっくりするぐらい日常生活においては紳士的だ。しかし試合となれば別問題。誰だって殴られたくない。痛い思いはしたくない。その本能が全選手を「本気」にさせる。強かろうと弱かろうと一切の妥協は無い。
「練習不足だから」「今日は体調が悪いから」と言い訳したところで相手は手加減などしない。
トライアスロンで通用する自分自身への言い訳は、格闘技の場合「痛み」として自分自身に跳ね返ってくる。
痛みを喜ぶ選手は居ない。本能的には「恐怖」であると思う。
だから試合に参加する場合は、アマチュアレベルの私であってもトライアスロン世界選手権に参加するときと同じような緊張感、恐怖感を味わうことができる。
勝つ選手、負ける選手、強いのに勝てない選手、本番で強い選手、自分に言い訳ばかりしている選手。種目は違っても共通点は驚くべきほど多い。武道であれ、スポーツであれ、根本は同じということだ。
「真の強さを身につける」。この目標を掲げてトライアスリートは世界を目指してほしい。勝負では他人に勝つこと以上に、自分自身に勝つことが要求される。
練習したことは実行できた。練習しなかったことは対応できなかった。結果は引き分け。
誤魔化しは利かない正直な種目である。
大会前に苦手部分を必死に強化していた。
得意を生かし、苦手を克服し、見事に日本王者に輝いた同じ道場の先輩女子選手。
中山俊行プロフィール
中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本の
トライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタート ライアス
ロン」。
【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝
1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督