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ASTCトライアスロンアジア選手権 (2012/館山)エリート女子

astc女子
開催日 2012.04.07
天候 晴れ
気温/水温 気温:12.4℃ 水温:15 ℃ 風速12m
レポート 茂木 宏子

 

泳・漕・走の3拍子揃った足立、アジア女王で完全復活!

2012年シーズンの国内開幕戦となった、4月7日のアジア選手権。温暖な南房総が舞台とはいえ、気温12.4℃、水温15℃、風速12mの海風が吹き付け、ライバルとの争いに加えて寒さとの戦いも強いられるタフなコンディション。女子はロンドン五輪の代表選考には関係のないレースだったが、代表に内定している上田藍のほか、残る2枠を争う庭田清美、崎本智子、井出樹里、足立真梨子、佐藤優香の有力6選手がズラリとそろう豪華な顔ぶれ。5月末まで続く代表選考の行方を占ううえで試金石となる重要な1戦となった。ビーチスタートのスイムで選手たちを苦しめたのが遠浅の海である。引き潮の時間帯にぶつかったこともあり、選手たちは沖に向かって泳ぐ……のではなく走る。100mほど行って泳ぎだしたと思いきやまだまだ浅く、ドルフィニングで前進を図るしかない。泳力以外の技術が求められる展開の中で、いかに慌てず冷静に戦うかが試された。そんな厄介な状況で好位置につけたのが足立だ。「ビーチランで遅れても、泳ぎで十分取り戻せる自信があった」という彼女は、先行するホン・ダンビとジョ・アレム(いずれも韓国)に2周目の中盤で追いつき、後続に25秒ほどの差をつけてスイムアップ。まずはレースの主導権を握った。

行きは向かい風、帰りは追い風のバイクコースでは足立が先頭に立つものの、力の劣る韓国2選手とのローテーションができず、ペースが上がらない。単独で引っ張るリスクを回避して庭田、崎本、井出、佐藤ら5人の後続集団の上がりを待ち、8人で先頭グループを形成。スイムで出遅れた上田のいる第2グループとの差を広げつつ、ランに向けて足をためる作戦に切り替える。実力差のある選手と一緒にバイクを走らざるを得なかった上田はペースが上がらず、先頭との差はバイク終了時に2分も開いてしまった。

この時点で優勝争いは先頭グループの日本選手5人に絞られる。選考レースでないとはいえ、代表枠をめぐってしのぎを削るライバル同士のガチンコ勝負。トランジションで出遅れた庭田を除く4人――足立と佐藤が前、崎本と井出が後ろで並走し、まずは互いの調子を探り合う。「今日はランに入ってからも足が軽かった」という足立が、2.5kmのランコースの1周目終盤あたりでスッと自然に前へ出る。これを崎本が追うが徐々にペースが落ち、2周目の中盤以降は足立の独走状態。最後まで力強い走りのリズムはまったく衰えず、世界ランキング9位につけていた2010年の活躍を想起させる“復活”の勝利だった。

その足立から19秒遅れの2位に入ったのが進境著しい佐藤だ。2010年ユース五輪で金メダルを獲得して活躍が期待されたものの、精神面の弱さから今ひとつ伸び悩んでいた。だが、1月に20歳になって大人の自覚が芽生えてきたのか、「同年代の海外選手に20歳で活躍し始めた人が何人かいるので、私もぜひその波に乗って行きたい。今年は絶対に飛躍の年にする」と公言。所属チームの先輩である足立や井出に対してもライバル意識を持って練習に取り組んでいる。「負けたくないと必死に食らいつきましたが、今日の先輩は強すぎました。でも、最後まで粘って走ることができたのでよかったです」と手応えをつかみ、笑顔を見せた。

一方、得意のランで最後まであきらめない圧巻の走りを観客に披露したのが上田だ。身長155cmの小柄ながら、上体を大きく左右に振ってストライドを伸ばすダイナミックな走法で前を行く選手を次々と捕らえ、2周目が終わる頃には残るは日本選手のみという6位にランクアップ。「何分離されてもランは腹をくくって走るつもりだった」といい、いま一つ走りにキレを欠いた崎本、井出、庭田を一瞬で抜き去って3位に浮上。ランだけなら34分7秒と、世界に通じるスピードで表彰台の一角を占めた。

ロンドン五輪の残る代表2枠は、4月14日のWTSシドニー、5月11日のWTSサンディエゴ、26日のWTSマドリードの3つの選考レースの結果で決まる。すでに終了したWTSシドニーでは、足立がスイムでぶっちぎりのトップを奪って優位に展開し、勝負のランで1位と1分差の9位に食い込んだ。昨年は体調不良に泣かされて影が薄かったが、完全復活でライバルたちを頭1つリードした格好だ。

残る選考2レースで、やや出遅れた感のある井出、庭田、崎本の実力者たちがいかに巻き返しを図るのか――。5月末まで女子の選考から目が離せない。

 

 

 

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茂木 宏子(もぎ ひろこ)
フリーランスライター。日本大学法学部新聞学科を卒業後、「週刊ポスト」や「DIME」などで活躍。80年代末にはスキーブームのきっかけとなる「極楽スキー」(小学館)の編集制作に関わった。トライアスロンの取材も15年以上に及ぶ。取材のフィールドはスポーツに限らず、ビジネス、最先端テクノロジーなど。 主な著書は「メダルなき勝者たち」(ダイヤモンド社)「お父さんの技術が日本を作った!」「夢をかなえるエンジニア」(いずれも小学館)。 第46回小学館児童出版文化賞受賞。現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻に在学中。

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