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第112回変われるか男子アスリート

今年のアジア・ジュニア選手権はカザフスタンのブラバイで開催された。
今回は第2回ユースオリンピック・アジア大陸別予選も同時に開催されたが、U23およびエリートレースは開催されず、ジュニア選手とスタッフのみの遠征となった。

情報量の少ないカザフスタン。
初めて海外派遣となったジュニア選手にとっては特に不安だったと思う。
往路においては北京空港で真夜中の5時間待機。
空港ベンチでしばしの睡眠。
ベンチで眠る経験などなかなかできないだろう。
北京空港から6時間の飛行機移動でアスタナ空港へ。
更にアスタナ空港からは4時間のバス移動でブラバイへ到着。

大きなストレスであったことは間違いない。
だが多くの選手はそれを愚痴にすることもなく現地に到着してからも元気に活動していた。
ブラバイにはコンビニなど存在せず、英語も全く通じない。
当然、買い出しは徒歩移動。
水を買うにも大騒ぎ。
しかし到着翌日からはジュニア選手だけで店に行きコミュニケーションを取りながら自由に動き回っていた。
このあたりのタフさには感心させられた。
私にとってのブラバイは、昭和の日本を感じさせる懐かしい雰囲気。
不便であっても決して不愉快な町ではなかった。

さて初戦はYOG女子予選。
久保埜がSWIM、BIKEと積極的に走るが最後のRUNで韓国選手に敗れ2位。
B→Rトランジションから飛び出しで遅れ、そのまま差を広げられた。
気合い負けといったところ。
実力では負けてないはず。

次がYOG男子予選。
山崎向陽が心の強さを見せ見事に優勝。
SWIMで先行、BIKEで追いつかれ、RUNで飛び出す。
韓国選手とフィニッシュ直前まで競り合ったが緊張感を最後まで保ちゴール勝負で決める。
気合い勝ち。
久しぶりに男子選手の強さが感じられた。

ジュニア女子は小原すみれが文句なしの優勝。
中国選手が不在だったことが残念。
昨年の雪辱を晴らしたかっただろう。
小原はSWIMから先行し、BIKE、RUNとも安定したレースを見せた。
小原に噛みついたのが初代表・瀬賀楓佳。今後の成長が楽しみだ。
そしてSWIMで出遅れながらもBIKEで強さを見せつけた枝光美奈。
レース全体の展開をブチ壊すほどの影響を与えた。
久しぶりにBIKEの強い日本選手をみた。

ジュニア男子は山本康貴が3位。
昨年誰一人表彰台に登れなかったこのカテゴリーでギリギリ表彰台を獲得。
こちらもSWIMから先行。
BIKEでは香港選手と2人で逃げ切る。
RUN中盤で第2グループから追い上げたカザフスタン選手に抜かれ、一緒にBIKEを走った香港選手に置いて行かれ、RUN後半には大幅にペースダウン。
ここまではいつもの弱い男子選手だった。
しかし表彰台に生き残るべく追い上げてきた4位の選手を気迫で振り切った。
RUNフィニッシュ500m手前で応援していた私は「やられた」と感じていただけに、たとえ3位であっても山本の最後の粘りは評価したい。

レース後には山本、山崎とも足が硬直し、歩くこともまともにできなかった。
これほどまで追い込みことができた彼らの走りを嬉しく思っている。
涎を垂らし鼻水を垂らしながらも勝つために走る選手より、爽やかな笑顔でゆとりをもったまま2位でフィニッシュする選手ばかりを見せつけられた昨今。
ようやく勝利を欲する選手を見た気がする。
こういうレースを繰り返すことで心と身体の強い選手が生まれてくる。

「レースよりU23男子合宿の方がきつかった。」
この言葉を聞いたときに、まだまだ日本の男子は成長できると強く感じた。
男子選手の復活と成長に期待をしてほしい。

【写真1】DSCF9744 TRI-X
香港選手と2人で逃げる山本康貴(アジア・ジュニア選手権)。
途中、緊張感を切らず場面もあったが最後の粘りは特筆ものだった。

【写真2】DSCF9766 TRI-X
表彰台を独占したアジア・ジュニア女子。
身体を成長させた上で、更なるトレーニングを積んでほしい。
目標は「エリートで通用する選手になる」ことだ。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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