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第87回コラム「世界のトップタイム」

世界のトップは「すごい」ってみんなが言う。でも「すごい」とか「はやい」という抽象的な表現ばかりで、ハッキリとしたイメージができない。何をもって「すごい」と言っているのか。そもそも「はやい」ってどれぐらいの速さなんだ?
メダル、メダルって騒いでいるけど、日本人選手は本当にメダル取れるの?ここ最近のエリート男子選手の活躍を耳にしないけど本当に強いのだろうか?
ドラフティング・ルールじゃなきゃ、永田成也(2010年エイジ総合王者)とか中井啓太(2009年エイジ総合王者)の方が速いんじゃないの?

う~ん、あながち否定できないかもしれない。
一部の選手を除くと、この可能性は否定し切れるものではない。
アイアンマンの世界に至っては、ここ最近は日本のプロ登録選手の活躍は見られない。

だが、ロンドン五輪に向け、トライアスロン女子競技がJOCの中で、重点強化種目に選定されている。
そのおかげでJISS(国立スポーツ科学センター)というところから、マルチサポート・スタッフが派遣され、トライアスロン界を助けてくれている。
このマルチサポート部隊、水温、気温、風向きといったレース環境はもとより、宿泊地周辺の生活環境、トレーニング環境も事前にチェックしてくれる。
更に凄いことは、選手の体調管理を様々なデータを使って数値化し、レースごとのデータも集計し、タイムを分析するばかりでなく、どんな選手が勝って、どんな展開になるとチャンスが来るかまで分析してくれる。
もっともデータが揃ったところで戦うのは選手。思い通りに進まないのがレースという生き物。ただ日本選手が勝つために「ありとあらゆることをしよう」体制ができあがりつつあるということだ。

さて、そこから得られた貴重なデータの一部を皆さんに披露しよう。「世界の頂点」が垣間見えてくる。なお、データはレースの平均的な話であることを予め伝えておく。

【SWIM】
男子は、最初の100mを1分5秒程度。そして最後まで1分12秒ペースで泳ぎ続ける。
女子は、最初の100mを1分10秒程度。そして最後まで1分15秒ペースで泳ぎ続ける。
オープンウォーターの、しかも80人近い一斉スタートの中で、これを実践することの難しさは想像できるだろう。
第1集団に残るためには、プール(短水路)400mを4分5秒程度(男子)、4分30秒程度(女子)の実力が求められる。

【RUN】
男子ならば最初の1kmを2分50秒前後でスタート。最後の1kmを3分程度で走り切る。表彰台を狙うならトータル29分台が必要。
女子ならば最初の1kmを3分15秒前後。最後の1kmも3分15秒程度。トータル33分台が表彰台への必要タイムだ。

【BIKE】
タイム化し辛い種目。それだけに誤魔化されやすい。BIKEは近年、特にレベルが上がり、より戦略性も強くなり、自転車レースの経験が必要不可欠になってきた。実際、BIKEパートで対等に走れている日本選手は、自転車ロードレース経験者のみだ。

ここまでのことをまとめると、競泳でジャパン(全日本)を目指しているレベルの、箱根駅伝ランナーが、全日本の自転車ロードレースに出場して完走する実力が必要になっているということ。
余計、わからなくなっただろうか!?

さて。これを聞いて、諦めるか、それとも挑戦するか。
ただ、この厳しい戦いの中でトップ10に入った日本女子が6人も存在することを忘れてはならない。
男子は残念ながらゼロ。だがトップ16に入る選手は存在している。もう一歩のところまで来ているのだ。

選手の夢が実現できるか否かは、選手自身の執念と、指導者の信念だ!!

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(写真1)ワールドカップ・モンテレーで準優勝。世界選手権シリーズではシドニーとキッズビュールで2度の入賞を果たす。課題のスイムを克服できればメダルがグッと近づいてくる。
快走する上田藍選手。

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(写真2)
懐かしい写真を1枚。
自転車シクロクロスレース。雪や泥の中も走る。効率の良いペダリング、バランス感覚、ブレーキングなど多くのテクニックを身につけることができる。
落車も普通に発生するので転び方も上手くなる。
ヘルメットが時代を物語る。

中山俊行プロフィール

中山俊行(なかやま としゆき)
1962年生まれ
日本にトライアスロンが初めて紹介された18歳のときトライアスロンを始める。
日本人プロ第1号として、引退までの間、長年に渡りトップ選手として活躍。
引退後も全日本ナショナルチーム監督、チームNTT監督を歴任するなど、日本のトライアスロン界をその黎明期からリードし続けてきた「ミスタートライアスロン」。

【主な戦績など】
第1回、第2回 宮古島トライアスロン優勝
第1回、第2回 天草国際トライアスロン優勝

1989年から8年連続ITU世界選手権日本代表
アイアンマン世界選手権(ハワイ・コナ)最高順位17位(日本歴代2位)
初代・全日本ナショナルチーム監督
元・チームNTT監督
元・明治大学体育会自転車部監督

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